アメリカの教育に携わる人の間では、多くの人が、子供にself esteem(日本語では 自尊心という言葉しか思い浮かびませんが、、、)を育成する事を意識している。私が個人的に触れている教育書や教育現場でも子供達の中にself esteemを育成させる事は、非常に重要だと考えている人が多い。この点に関して、私は意義は唱えない。けれども、こういう会話や話し合いを目の当たりにして、いつもしっくりこないのは、何の疑問もなくself esteemをインスタント的に与える事が多く、それに対して、私の心がしっくりこないからだ。
8年程前に、大学の論文のクラスで、「self esteemの乱用」というタイトルで論文を書いた事がある。この論文では、多くの教育者が、self esteem=自分が何かの役に立っているとか、どんな小さな事でも子供の良い所を認める、という考えを子供達に分かりやすく反映させるために、常識では考えられない様な褒美を子供達に与える教育者が多い事に対する 反論的な意見を立ち上げた。例えば、テストの点が悪くても、テストを受けた事に対する褒美ということで、キャンデイーや鉛筆が配られるという事実。これに対し、このような褒美によって、子供達はインスタントに報酬を得られることが普通になり、それが子供達の中でスタンダードなものになったら、努力する事に意味を見いだせなくなるという危険性が潜んでいる事を指摘した。この論文の課題は、「議論」を書く事の技術をテストされるものだったので、私の立ち上げた意見に対しての他の生徒の意見を聞くという機会は、得られませんでしたが、教授からは、大いに賛同を頂いた作品だった。
この作品を書いてから8年、小学2年生の我が子が通う学校を見ても、自尊心をインスタント的に与える教育法というのは、定着されている様に見える。3歳半から通い始めた私立校ですが、小学校に上がると同時に、色々なプロジェクトに携わる様になった娘。そのプロジェクトがここ最近非常にエスカレートしている様に思える。
先週の話ですが、娘が学校から 「熱帯雨林のジャングルを守る為の基金作り」なるカタログを持ち帰って来た。現在熱帯雨林は、先進国の消耗品や食品の生産の際に必要なパームオイルのもとのパムツリーを生産するため、多くのジャングルが何の規制もなく開拓されている。そこで、お金を払って熱帯雨林の土地を買い取り、その地域を開拓から守ろうと言う運動がなされているということで、Tシャツを売って、10枚の販売につき、1エーカーの土地を購入出来る、、、、みたいなうたい文句が書かれてあった。娘が持ち帰ったカタログには、かわいいデザインのTシャツの写真が何十枚と載っていた。しかし、私が先に書いた、熱帯雨林が乱開拓されている理由については、全く書かれていなかった。(このプログラムに疑問を持った私が、なぜ熱帯雨林が乱開発されているのか調べてみたものです) そして、この団体が学校に送りつけた、”熱帯雨林乱開発の実態”なるDVDをみて、尊い動物の命が奪われて行くことのみを写した映像に感銘を受けた子供達が、喜び勇んでカタログを家に持ち帰り、親や親戚に純粋な言葉で「Tシャツを買って、そしたら熱帯雨林が守れる!」と呼びかける。 そんな子供の純粋な心に感銘を受けた親達は、$14ドルくらいなら、、、、とTシャツを注文する。親や知人の懐を叩いてTシャツの注文を取り、子供は、「あージャガーの赤ちゃんが救われた」と善意につつまれる。学校側では、「我が校は、◯◯エイカーの熱帯雨林を救いました」と誇らしげに発表して、子供達に達成感を味会わせてくれる。
辛口な考えかもしれないけど、このインスタントな自尊心と正義感を幼い子供に植え付ける事は、正直言って吐き気がします。この活動によって、子供達の中に何が芽生えるか、、、、、親に何かを買ってもらって何かを救える=買う事は悪い事でない、買う事はいいことだ、、、、、しかし、そもそもこの熱帯雨林の乱開拓の元は、アメリカをはじめとする、我が先進国の消耗品や食品(ある団体は、シリアルに使われるパームオイルが大きな割合を占めてると訴えていますが)の製造に必要なパームオイルの需要があるのが根源だと言う事実は、子供達に全く触れてはいないどころか、それを分かっていない大人も多いのではないかと思う。気の遠くなる様な時間はかかるけれども、まずは、私たちの消費の需要数を減らして行く事が問題解決への第一歩だという事を、誰も教えない。そして、消費する意識だけを植え付けている。だから、こんな見せかけの慈善事業をしたところで何の解決にも至らないはずだ。(勿論、短期的に見ると、効果はある事と思いますが)
ま、こんな意見を持ったところで、私も人の子の親。我が家でもTシャツを購入しました。しかし、私たちが支払った$70(大家族なので、誰かどうか買ってくれる)のうち、本当に熱帯雨林の為に使われるのは、いかほどなのだろう? 我が家では、洋服はほとんど中古品の 1枚$2程度のものを使用しています。 ゴミになるものを、$2で買い取り再利用したほうが、あたらしいTシャツを作る事より、いかに地球の資源を節約していることか、、、、、そして、本当に娘が熱帯雨林を守りたいと言うなら、現金$50程度を寄付した方が、どんなに良い事か。こういう事を子供に理解させるのは、本当に至難の業ですね。特にこんな偽慈善事業に取り組んでしまうような学校の中にいたら、子供は、洗脳されますものね。
今回のTシャツの注文の一件は、私とトニーの間でも大きな論議となりました。5日振りに出張から戻って来たトニー、いきなりこんな話で疲れてしまったかもしれませんが、最終的に2人とも 長い目で 表面下の問題を直視出来る様な人間に子供を育て行きましょう、、、、ということで収まりました。今の娘の年では、まだまだ直接的な解決法しか理解出来ないのも確かなところなので、、、、、